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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)359号 判決 1973年5月30日

控訴人(第一九三一号事件被告 第七四号事件原告) 戸塚管工事有限会社

被控訴人(第一九三一号事件原告 第七四号事件被告) 遠藤市五郎 外一名

主文

原判決中横浜地方裁判所昭和四二年(ワ)第一九三一号事件に関する部分を取り消す。

右事件につき被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

同庁昭和四三年(ワ)第七四号事件に対する本件控訴を棄却する。

訴訟費用中同庁昭和四二年(ワ)第一九三一号事件について生じた部分は第一、二審とも被控訴人らの負担とし、同庁昭和四三年(ワ)第七四号事件について生じた控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「(一)原判決を取り消す。(二)横浜地方裁判所昭和四二年(ワ)第一九三一号事件につき、被控訴人らの請求を棄却する。(三)同庁昭和四三年(ワ)第七四号事件につき、被控訴人らは控訴人に対しそれぞれ金二五六、六九七円およびこれに対する昭和四三年一月二八日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(四)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決および第三項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、つぎに附加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一、原判決書三枚目裏一行目「詰二〇米」とあるのを「約二〇米」と訂正する。

二、控訴人は、原判決書六枚目裏六行目「金二三三、一九四円」を「金二三三、三九四円」、同九行目「金二二八、三九四円」を「金二二五、三九四円」、同七枚目裏四行目「金五一六、三九四円」を「金五一三、三九四円」、同八行目「金二五八、一九七円」を「金二五六、六九七円」とそれぞれ訂正する、と述べ、被控訴代理人は、右訂正に異議はない、と述べた。

三、控訴代理人は、昭和四三年(ワ)第七四号事件につき、仮りに、本件事故が訴外亡清の運転中に生じたものでなく、訴外渡花芳美の運転中、同訴外人の過失により発生したものとしても、当時の運行に当つては、訴外清が本件バキユーム車の運転手として、訴外渡花が助手として乗務していたのであるから、訴外清は運転手として本件バキユーム車の運行を管理する責任を負つていたのであり、訴外渡花の運転上の過失についても運行管理者としての責任を免れることはできず、本件事故により控訴人の蒙つた損害を賠償する義務があるというべきである、と述べた。

理由

一、横浜地方裁判所昭和四二年(ワ)第一九三一号事件について

(一)  本件事故について、訴外清の遺族である被控訴人らに対し、控訴会社が労働基準法(昭和四〇年法律第一三〇号による改正当時のもの)に定める労働者災害補償としての遺族補償をすべき立場にあつたことは、原裁判所の判断のとおりであるから原判決書理由欄中のこの点の記載(原判決書九枚目表七行目から同裏八行目まで)内容を引用する。

(二)  ところで、右法律の第八四条第一項によれば、同法に定める労働者災害補償の事由について、同法の災害補償に相当する給付が、労働者災害補償保険法(昭和四〇年法律第一三〇号による改正当時のもの)に基づいて行われるべきものである場合には、使用者は、補償の責を免れる旨を規定し、右労働者災害補償保険法第一六条において遺族補償給付として年金または一時金が定められ、本件においてはその一時金給付の場合に該当するものとして、すでにその支給がなされたことは被控訴人らのみずから主張するところである。そうとすれば、右一時金の給付は前記労働基準法の災害補償に相当する給付に当り、控訴人は右災害補償の責を免れているものというのほかはない。

(三)  もつとも、労働基準法第七九条においては、遺族補償の額は死亡労働者の平均賃金の一、〇〇〇日分と規定されているのに、右労働者災害補償保険法第一六条の六、同条の八及び同法別表第二によれば、遺族補償一時金の額は右平均賃金の四〇〇日分と規定されていて、(イ)労働者保護の基本法である労働基準法が使用者の責任として定めた範囲を、その責任保険としての性格をもつ筈の労働者災害補償保険法が軽減するという不合理を招き、(ロ)死亡労働者の勤務していた事業が労働者災害補償保険に加入していたときは、遺族補償一時金が前記四〇〇日分となり、これに加入していなかつたときは右一時金が前記一、〇〇〇日分となるという、右加入、不加入という労働者または遺族に無関係な事情による著しい不公平が生ずるという問題がある。そして、昭和四〇年法律第一三〇号による右二法の改正前における労働基準法第八四条第一項は、右保険給付があつても、使用者は「その給付の限度において」補償の責を免れる旨を規定していたことからすれば、右の不合理、不公平は一層明瞭であるようにみえる。

(四)  しかし、右(イ)の点は、労働基準法自体において、一方で遺族補償についての一般的な定めをし、他方で前記保険に加入している事業の場合の特例を定めて、その保険給付の額を前記保険法の定めに譲つているのであるから、必ずしも不合理であるとはいえないし、(ロ)の点も、なる程遺族補償一時金の額は、事業が前記保険に加入していない場合より、その加入している場合の方が少いけれども、反対に、右加入のない場合には前記一般の例によるほかに遺族補償年金支給の途がないのに、右加入の場合には右年金支給によるより厚い保護があるのであつて、この保険加入の有無による結果の相違は遺族補償そのもののなかでの公平、不公平の問題ではなく、保険制度のなかでの給付の仕方にかかるものであり、その保険制度の改善、工夫によつてやがてより保護の厚い方向に進む過渡的な一現象とみるべきものである。そして、現に、右現象は昭和四〇年法律第一三〇号による前記二法の改正によつて始めて生じたのであるが、その後、昭和四五年法律第八八号によつて労働者災害補償保険法が改正され、以上の問題が解消されたのである。

(五)  以上の考えと異る見解に立ち、被控訴人らの前記受給済の遺族補償一時金を超える補償を求める本訴請求は失当というのほかはなく、これと相異する原判決の部分は不当であるから、その部分を取り消し、被控訴人らの請求を棄却することとする。

二、横浜地方裁判所昭和四三年(ワ)第七四号事件について

(一)  当裁判所の判断は、次の(二)のとおり付加するほか、原判決書理由欄の記載(原判決書一二枚目裏七行目から同一三枚目表八行目まで)内容と同一であるからこれを引用する。

(二)  訴外渡花は本件事故を起した控訴人所有自動車に、助手として乗務したとしても、成立に争いのない乙第一号証によれば、右訴外人も普通及び大型自動車の運転免許を受けていたことが明らかであり、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、訴外渡花及び訴外清が交替して右自動車を運転していたこともあり、そのこともありうることが認められるので、本件事故当時訴外渡花が運転していた可能性もないとはいえず、また、その運転の交替を非難することもできず、特別の事情がなければ、たとえ助手の訴外渡花がその運転中に過失で本件事故を起したとしても、その責任を直ちに正運転手であつた訴外清に帰することもできないところ、右特別事情を知るべき資料もないので、いずれにしても本件事故の責を訴外清に帰することは困難である。

(三)  したがつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、この部分の本件控訴を棄却することとする。

三、そこで、民事訴訟法第九五条、第九六条及び第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治 下門祥人 兼子徹夫)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

昭和四二年(ワ)第一、九三一号事件被告戸塚管工事有限会社は、同事件原告らに対し、それぞれ金六五三、四〇〇円ずつ、及び右各金員につき昭和四一年九月一六日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

昭和四三年(ワ)第七四号事件原告戸塚管工事有限会社の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、昭和四三年(ワ)第七四号事件原告同四二年(ワ)第一、九三一号事件被告戸塚管工事有限会社の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

〔昭和四二年(ワ)第一、九三一号遺族補償請求事件〕

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら訴訟代理人は「被告は原告らに対し、それぞれ金六五三、四〇〇円ずつ、及びそれぞれにつき昭和四一年九月一六日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二、被告訴訟代理人は「原告らの請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求めた。

第二、請求原因

一、訴外遠藤清(以下、訴外清という)は、被告会社の従業員で、当時被告会社の営業のため訴外渡花と一緒にその営業用バキユーム車(神8あ一七四七号)の運行業務に従事していたが、昭和四一年九月五日午後三時三〇分頃、横浜市保土ケ谷区星川町三丁目四八九番地先横浜バイパス陸橋上において、訴外田村元男の運転する訴外松影産業有限会社所有の大型貨物自動車(神一な一二三四号)にセンターラインを越えて衝突し、詰二〇米下の道路に落ちて死亡したものである。

二、訴外清には妻子がなく、両親である原告らが唯一の遺族であるところ、右事故は訴外清が被告会社の業務に従事中死亡したものであるから、被告会社は遺族たる原告らに対し、訴外清の平均賃金の五〇〇日分ずつ合計一、〇〇〇日分の遺族補償を支払う義務があり、訴外清の平均賃金は金二、一七八円であつたから、被告会社は原告らに対し、金一、〇八九、〇〇〇円ずつの支払義務がある。

三、しかし、原告らは既に労働者災害補償保険法(以下労災保険法という)により遺族補償一時金として、それぞれ金四三五、六〇〇円ずつの支払を受けた。

四、よつて、原告らは被告会社に対し残額の金六五三、四〇〇円ずつ及びこれに対する年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めるため本訴請求に及んだものである。

五、被告会社の主張に対して次のとおり附陳した。

労働基準法は、労働条件に関する国家的規制の基本法たる性格を有するものであり、災害補償制度について言えば、労働基準法の各規定を労働者にとつて具体的現実的に保障するため労災保険法が設けられたものである。従つて、労働基準法第七九条の保障を労災保険法の改正によつて否定することはできない。労働基準法第八四条の改正も被告会社の主張する趣旨ではない。

第三、請求原因に対する被告会社の答弁

一、請求原因第一項の如き事故のあつたことは認める。但し、訴外清は、事故当時、現にバキユーム車を運転していたものである。

二、請求原因第二項は否認する。但し、訴外清に妻子がなく原告らが訴外清の遺族である点は認める。

労働基準法第七九条によれば、労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は遺族に対して平均賃金の一、〇〇〇日分の遺族補償を行わなければならないと規定しているが、同法第八四条第一項によると、労働基準法に規定する災害補償の事由について、労災保険法に基づいて、労働基準法の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は補償の責を免れると明記してある。そして本件の事故については、遺族である原告らに右給付が行なわるべきものである場合に該当するから、使用者である被告は補償の責を免れるものと解さねばならない。このことは昭和四〇年法律第一三〇号により本条が改正されたとき旧法の条文より「その価額の限度において」なる字句を削除した点でも容易に理解しうるところであるが、右と時を同じうしてなされた同法竝労災保険法の関連条文の改正の趣旨に照らせば一層明白である。

三、請求原因第三項は認める。

四、請求原因第四項は否認する。

〔昭和四三年(ワ)第七四号損害賠償請求事件〕

第一、当事者の求めた裁判

一、原告訴訟代理人は「被告らは、原告に対しそれぞれ金二五八、一九七円ずつ及びそれぞれ昭和四三年一月二八日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二、被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

第二、請求原因

一、訴外清は原告会社の従業員で、当時原告会社の営業のためその営業用バキユーム車(神8あ一七四七号)を運転していたものであるが、昭和四一年九月五日午後三時二〇分頃横浜市保土ケ谷区星川町三丁目四八九番地先横浜バイパス陸橋上において、訴外田村元男の運転する訴外松影産業有限会社所有の大型貨物自動車(神一な一二三四号)にセンターラインを越えて衝突し約二〇米下の道路に落ちて死亡したものである。

二、右衝突は、訴外清が対向車の有無並びにその進行状態に注意し十分安全を確かめずにセンターラインを越えた過失により起つたものである。

三、原告会社の蒙つた損害

1 右衝突により原告会社所有の前記営業用バキユーム車は大破全壊した。右バキユーム車は昭和三八年一〇月横浜プリンス株式会社より金一、〇八八、〇〇〇円で購入したもので、右事故発生当時の時価は金二三三、一九四円であつたところ、右全壊により昭和四二年四月二二日株式会社横浜ガレージに金八、〇〇〇円を以つて引き取られたに過ぎないため、その差額金二二八、三九四円の損害を受けた。

2 右衝突により右記バイパス路上で、前記原告会社所有のバキユーム車と松影産業有限会社所有の大型貨物自動車とが噛み合つたため、之を引き離すために原告は訴外三国屋運送こと遠藤久に依頼し同人は同人所有の牽引車(品い三七一五号)を以つて之を引き離したが、その際の作業にあたり、右牽引車が損傷したため、その修理代として金八八、〇〇〇円を原告会社は昭和四一年一二月三一日右遠藤久に支払つた。

3 右衝突により、対向車たる松影産業有限会社所有の大型貨物自動車も損傷し、原告会社はその修理代として金五〇〇、〇〇〇円の請求を右松影産業有限会社から受け、これを同社に支払うのやむなきに至つた。但し、内金三〇〇、〇〇〇円は原告会社のかけていた損害保険により支払われたので、原告会社が現実に蒙つた損害は金二〇〇、〇〇〇円である。

右123の合計は、金五一六、三九四円である。

四、訴外清には妻子がなく、被告らが訴外清の父母として右清が前記事故により原告に支払うべき損害賠償債務を共同相続した。

五、よつて原告会社は被告らに対しそれぞれ金二五八、一九七円ずつ及びこれに対するそれぞれ本件訴状送達の翌日である昭和四三年一月二八日より支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、請求原因に対する被告らの答弁

一、請求原因第一項の如き事故のあつたことは認める。しかし、訴外清が事故当時現にバキユーム車を運転していたとの点は否認する。

二、請求原因第二項の過失の点は否認する。

三、請求原因第三項は不知。

四、被告らが訴外清の相続人である点は認める。しかし、損害賠償債務を相続した点は否認する。

五、請求原因第五項は争う。

〔証拠〕<省略>

理由

〔昭和四二年(ワ)第一、九三一号遺族補償請求事件〕

一、訴外清が被告会社の従業員で、本件事故発生当時、被告会社の営業のため、訴外渡花と一緒にその営業用バキユーム車(神8あ一、七四七号)の運行業務に従事しており、昭和四一年九月五日午後三時三〇分頃、横浜市保土ケ谷区星川町四八九番地先横浜バイパス陸橋上において、訴外田村元男の運転する訴外松影産業有限会社所有の大型貨物自動車(神な一、二三四号)にセンターラインを越えて衝突し、約二〇米下の道路に落ちて死亡したことについては、当事者間に争いがない。訴外清が事故当時、右バキユーム車を運転していたか助手席に乗務していたかは後記認定のとおり確定できず不明であるが、いずれにしても「業務」に従事中であつたことに変わりはないから、被告会社は遺族補償を支払う義務があるものと言わなければならない。

二、被告会社は、労働基準法第八四条第一項には、昭和四〇年法律第一三〇号による改正までは「その価額の限度において」なる文言があつたが、これが削除されたことは、労働基準法に規定する災害補償の事由につき、労災保険法に基づいて一定の給付が行われれば、使用者は免責されるものと解釈されるべきであると主張するからこの点について考えてみる。

1 労働基準法第七九条には、労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の一、〇〇〇日分の遺族補償を行わなければならない、とあり、労災保険法第一六条の六、同条の八、別表第二によると、労働者の死亡当時遺族補償年金を受けることができる遺族がないときは、遺族補償一時金の額は、給付基礎日額(労働基準法第一二条の平均賃金に相当する額)の四〇〇日分と規定してある。

従つて、被告会社の主張する免責説によると、死亡労働者が勤務していた事業が労災保険に加入しているときは、その遺族は平均賃金の四〇〇日分の給付を受けるに止るが、その反面、事業が加入してないときは一、〇〇〇日分の給付を請求できることになる。

労働者の死亡によつて、遺族が受ける損害に変りがある筈がないのに、その事業が労災保険に加入しているかいないかという、当該労働者には関係のない偶然的事由により、補償の額が著るしく異るということは、明らかに不合理であると云わざるを得ない。

2 ひるがえつて、労働基準法と労災保険法との関係をみると、労働基準法は労働者保護法の基本法であり、労災保険法は、昭和四〇年の改正前までは、労働基準法の災害補償義務を担保する一種の責任保険としての性格をになつた法律であつた。

右改正後、労災保険法が単なる災害補償義務の履行担保から、それをうわまわる被災労働者の生活保障、社会保障としての色彩を強めたことは、労災保険法の給付の年金化傾向、打切補償にかわる長期傷病者補償制度の導入などによつて知ることができる。しかしながら、その「責任保険としての性格」が失われたものとは解されない。従つて、使用者が免責されるためには、労働基準法に定める給付を、労災保険法に基づく給付が完全にこれを履行する必要があるものと云うべきである。

3 本件のように、労災保険法に基づく給付と労働基準法に定める金額との間に差額があるときは、改正前の労働基準法第八四条と同様に、「補償を受けるべき者が、同一の事由について、労災保険法によつて保険給付を受けるべき場合においては、その価額の限度において使用者は補償の責を免れ」るものと解するのが相当である。

よつて、被告会社のこの点に関する主張は採用の限りでない。

三、従つて、原告らは被告会社に対し、遺族補償金として、労働基準法第七九条に基づき、訴外清の平均賃金の一、〇〇〇日分を請求できる。

成立に争いのない甲第五号証の二(労災保険遺族補償一時金請求書)の記載によると訴外清の平均賃金は金二、一七八円であることが認められる。そして、訴外清に妻子がなく、原告らが訴外清の遺族であること、原告らが、労災保険から遺族補償一時金として平均賃金の四〇〇日分にあたる金八七一、二〇〇円の二分の一の金四三五、六〇〇円宛をそれぞれ受け取つたことは当事者間に争いがない。

よつて、原告らはそれぞれ被告会社に対しこの平均賃金五〇〇日分の金一、〇八九、〇〇〇円から受領済の金四三五、六〇〇円を控除した金六五三、四〇〇円並びに、右各金員につき訴外清の死亡後であること明白な昭和四一年九月一六日より支払ずみ迄民法所定の年五分の遅延損害金の支払を請求する権利を有する。

よつて原告の請求は理由があり正当であるので、これを認容する。

〔昭和四三年(ワ)第七四号損害賠償請求事件〕

不法行為に基づく損害賠償請求事件においては、不法行為者の何人であるかを、原告において主張・立証する責任があるところ、原告会社主張のように訴外清が事故発生当時現にバキユーム車を運転していたとする原告会社代表者本人尋問の結果(第一回)は信用できないし、その他この点について立証するに足りる証拠がない。成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、同第六号証中には、訴外清が運転していた旨の記載があるが、右本人尋問の結果(第一回)によると、これらは原告会社で記載したことが認められるので、これらを信用することもできない。

すると、原告会社は、本件不法行為者が何人であるか立証できないから、爾余の点を判断するまでもなく、原告の請求は失当であるのでこれを棄却する。

訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

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